近年のAIの進歩は非常に速く、研究の進め方を大きく変えつつあります。数学、物理、情報、コーディングなど、研究に必要な多くの場面でAIは強力な助けになります。学生の皆さんには、AIを積極的に使ってほしいと思います。
AIが大きな助けになるからこそ、何をAIに任せ、何を自分で行うのかを考える必要があります。この文章では、学生の皆さんにAIを積極的に活用してもらうための、研究における付き合い方について記します。堀田の哲学が多く含まれているので、全ての人に当てはまるわけではありません。特に堀田の研究室に所属する学生が読むことを想定しています。
また、AIの能力も、研究における良い使い方も、これから急速に変わっていくでしょう。そのため、ここに書くことは固定的なルールではなく、状況に応じて更新していくべきものです。
AIとの付き合い方を考えるうえで、特に大切にしてほしい原則は以下の二つです。
研究の楽しさを失わないこと
自分自身が成長する機会をAIに奪わせないこと
AIは便利なので、使い方を誤ると、時間は節約できても、研究の面白い部分や自分が成長するために必要な経験まで省いてしまうかもしれません。自分で考え、わからないことに向き合い、試行錯誤する経験がなければ、未知の問題に取り組む力や、自分で判断する力は育ちにくくなります。AIを使うか迷ったときには、この二つを基準に考えてください。
AIは、研究者の能力を大きく広げてくれる道具です。数式の計算や導出の確認、物理的な直感を得るための議論、プログラムの作成・デバッグ、英語の文章の推敲、文献を読む際の補助など、うまく使えばできることは大きく増えます。
私はAIのことを考える時、車や飛行機を思い出します。車や飛行機があっても、歩くこと、走ること、自転車に乗ることには、それぞれ違う楽しさと価値があります。目的地に早く着きたいなら車や飛行機を使えばよいでしょう。一方で、身体を鍛えたいとき、道中を楽しみたいとき、知らない景色を見つけたいときには、自分の足で進むことに意味があります。また、前人未到の地には、車や飛行機では行けず、自分の足で道を切り拓かなければならないこともあります。
AIも同じ考えが通じるかもしれません。答えを得ることだけが目的なら、AIに任せるのがよい場面は多くあります。一方で、仕組みを理解したいとき、自分の力を鍛えたいとき、試行錯誤そのものを楽しみたいときには、あえて自分で取り組む価値があります。
完全にAI頼りになると、自分で考える機会が減り、やる気を失ってしまう危険もあります。自分で少し考えて、うまくいかず、工夫して、ようやく理解できたという経験は、研究の楽しさの大切な部分です。AIに助けを求めることと、AIに研究を代わりにしてもらうことは違います。
AIはコーディングにおいて非常に有用です。新しい言語やライブラリの使い方を知る、エラーの原因を探す、処理の方針を議論する、コードの改善案を得る、といった場面では積極的に使うと良いでしょう。自分一人で何日も悩むより、AIとの議論で数十分のうちに前に進めることも多くあります。
最近、私自身もClaude CodeやCodexを使ってコーディングをしていますが、これはとてつもなく楽しいことだとわかりました。知らないライブラリや自分では思いつかなかったアルゴリズムを提示してくれ、それを詳細に説明してくれます。これまでは何となく使っていた部分についても、完全に理解したうえで前に進めるようになることは、とても楽しい経験です。
ただし、AIが出力したコードをそのまま実行して、結果だけを使うことはおすすめしません。AIにコードを書かせることは全く構いませんが、AIが出力したコードについては、自分が納得するまで一行一行説明させることをルールにしてください。説明を聞いても理解できない部分が残るなら、そのコードはまだ自分のコードではありません。
コードが実行できることと、理解して使えることは違います。どのような入力を仮定し、何を出力しているのか。各処理はなぜ必要なのか。どのような条件で破綻するのか。これらを自分で説明できるようにしてください。特に研究で使うコードでは、AIの出力がもっともらしく見えても、物理や数値計算として誤っていることがあります。最終的に結果に責任を持つのは、自分自身です。
学生の間は、なるべく自分でコードを書く経験も大切にしてほしいと思います。自分で書き、動かず、原因を探し、直す経験を通して、プログラミングだけでなく、問題を分解して考える力も身につきます。AIはこの過程を助ける良い先生になり得ますが、その過程そのものをすべて置き換えてしまわないようにしてください。